恐竜の背中と呼ばれるに相応しい細尾根は、眼前に聳えていた…

第一章 思い掛けない誘い…

 僕たちの山旅は、先週の伏美岳で一区切りだと思っていた。しかし、あかねさんのメールには、「ニセイカからアンギラスの縦走を計画しています。一緒に如何ですか?」と、書かれていた。こんな計画を、断れる筈も無い。アンギラスの通過と云えば、車が二台は必要な山行だ。この誘いに乗らない訳は無い。僕は、「是非」という言葉を添えて、参加させてもらう事にした。

 昨年九月、眼前に聳える通称アンギラスと呼ばれる細い尾根を抱く稜線を眺めていた…。いつか、歩いてみたいという衝動があった事を、今も、憶えている…。岩も経験してみた。高所恐怖症の克服の為に…。藪も漕いでみた…。道無き道を辿る為に…。

 前夜、白滝高原のキャンプ場に集結。メンバーは、お馴染みの永遠の青年、フェルさん、いつも明るい、あかねさん。勿論、ママも一緒だ。ママは、アンギラスの正体を、未だ、知らない。詳しく教えると、余計な心配が、山よりも高く積み上がるからだ。騙して連れて行くのが一番良い…。長い付き合いの経験則だった。

 八時前に着く。携帯電話を入れる。指示通り車を乗り入れると、前方のバンガローの扉が開いた。今夜の宿は、テントじゃなく、温々とした住まいだった。寒がりのママは、既に、喜んでいる。僕が喜んだのは、他の事だった。あかねさんの用意した「すき焼き」に舌鼓を打ったのは、言うまでも無い…。

 話は弾むけれど、明朝四時半起床の計画は、僕たちに早寝をさせるには充分な計画だ。ストーブと明かりを消して、明日に備えよう…。しかし、外は、強風が吹き荒れ、厚い雲が空を流れている。不安を抱きながらの一夜を過ごすのは、恐らく、四人とも同じだったのかも…。

 

 

 

第二章 出発は曇り空…

 朝、四時半にベルが鳴る…。真っ先に、外に出る。真っ暗な朝だと知った。そうか、秋の日中は短いのだと、改めて、思った…。見上げると、キャンプ場の木々の上に、星が輝いている。風も収まった様だ。これは、期待出来るかも知れないと、バンガローに戻って、みんなに伝えた。そうだ、のんびりとはしていられない。早々に、朝食を摂って、出発の準備だ。

 登山口は、ニセイカウシュッペ側で、下山は平山登山口だ。山は隣り合わせで近いけれど、そのそれぞれの登山口は遠く離れている。

 先ず、平山登山口へ向かう。早朝の舗装道路のドライブは、快適だ。林道に入っても、ダートの道は荒れておらず、順調に事は運ぶ。ここには、あかねさんの車をデポして、僕の車でニセイカウシュッペの登山口に向かう。これが、長い…。林道に入ってからは、もっと長く感じる。途中でゲートの施錠を外し、二度目のゲートを過ぎると、悪路に変わる。僕の乗用車では、急ぎたくても急げない。こんな時は、オフロード四駆が羨ましい…。

 午前八時十分、記帳をして出発した…。空は、白い雲に覆われていた…。

 登山口は、落ち葉が拡がり、秋の終わりを告げているかの様だ。先週に登ったおっ様の写真を見たけれど、あの日が、紅葉のピークだったのだと思う。落ち葉の数だけ、木々の枝は、身を軽くしていた。しかし、四人は、それを気にも留めない。今回の目標が、アンギラス通過、というイベントだからだった。ニセイカウシュッペの頂きも、おまけの様なものだ。

 バンガローでの就寝は正解だったかも知れない。いつもの車中泊の朝を迎えた時の、身体の重さは無かった。気掛かりなのは、先週の伏美岳の疲れが残っている事だけだった。登山というよりも、ロングドライブの疲れと云った方が正しい…。

落ち葉の道を…

 

裾野の秋模様…

 

 暫くは、単調な道が続く。裾野には、光が零れ落ち、秋の模様を浮かび上がらせている。上空は、厚い雲に覆われてしまっている訳では無い様だ。気温が上がったら、雲は消えるかも知れない…。そう期待しながら、黙々と歩いた。すると、裸になった木々の枝の間から、見慣れない光景が浮かび上がった…。それは、初めて目にする、初冬のニセイカウシュッペの姿だった…。一斉に、歓声が上がる。少なくとも、僕の脳裏には、白い山影は浮かんでいなかった…。昨夜の強風と雨がもたらしたもの…。それが、樹氷の中の山行の始まりだった…。

現れた光景…

 

 そして、雲は、急激に消えてゆく…。劇的な幕開けが、始まった。僕たちは、言葉を、失う…。急ぎ過ぎる展開に、付いてゆけない。圧巻のクライマックスは、目前に聳える1742mのコブの姿だった…。それは、まるでマッターホルンの雄姿にも似て…。

1742mのコブ

 

 とうとう、青空が、拡がった…。歩く速度は、次第に速くなる。一刻も早く、展望の良い所へと近付きたいのだった。先を行くあかねさんとママは、コーナーを曲がる度に、歓声を上げている。それを聞くフェルさんと僕は、またもや、シャッターチャンスを逃すものかと、急ぐ…。

 そして、ニセイカウシュッペの頂きも視野に捉えた…。

左にニセイカウシュッペの頂き…

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